FM三重『ウィークエンドカフェ』2021年6月26日放送

玉城町、田丸駅のすぐ近くに町の指定文化財、玄甲舎があります。
ここは、金森得水の茶室兼別邸です。
今回は、この玄甲舎の管理人、作野瑛一さんがお客様です。
一般公開がはじまり、ちょうど1年が過ぎました。

蔵が茶室の半分を隠し、簡素ながらも美しい数寄屋造り

この玄甲舎は弘化4年、西暦でいうと1847年に旧の田丸町佐田に建設された、金森得水の茶室兼別邸です。
得水は江戸時代後期に田丸城主である久野丹波守の家老として政務を執り行うかたわら千利休から続く表千家茶道の免許皆伝をうけた人物です。
玄甲舎を建築してからは、しばしばここで茶会を催していました。士族をはじめ当代一流の各界名士を招いて、交流を深めたと伝えられています。
この玄甲舎は、建築後170年以上経っていますが、玉城町ではこの敷地を含めて史跡として位置づけ文化財指定をしました。
平成27年度より平実地調査を行いまして、修理方針の取りまとめとか実施設計を行うことで、修復事業に着手しました。
そして平成29年度には、建物の改修を終えて、令和元年度に庭園の復元整備を行いました。
この玄甲舎というのは数寄屋造りとなっていまして、自然の風合いを残した…つまり人の手が加わっていない材料を使った建て方となっています。
西半分は茶の湯に使われ、東半分は居住用として使われていました。
土蔵の西側から玄甲舎を望むと、土蔵が建物を隠し、大きさや高さを感じさせない謙虚さがあります。

 

大工、庄五郎の遺作の建物

千利休が営んだ残月亭や、不審庵という有名な茶室を再建した大工の庄五郎という人物がいたのですが、再建した茶室は明治39年、西暦1906年の火災で焼失してしまいました。
ですので庄五郎の作風を残すものは、もうなくなってしまったと思われていました。
しかし玄甲舎の八畳間の炉壇の蓋に『庄五郎作 弘化四年』と記されていることから、玄甲舎の築造に大工庄五郎が関わっていたことがわかったんです。
実物は教育委員会で保存してあります。
『庄五郎作 弘化四年』が関わっていたことの証拠となっています。
玄甲舎の庭園はおよそ250坪ありまして、石灯籠やつくばいなどがあります。
『つくばい』とは石や岩で作った手水鉢のことです。
木々の間には大小の面白い形をした奇石や怪石などを取り混ぜた、飛び石が置かれています。
南側には国束山系の山並みや、東面の鷲嶺を借景として昔の人たちが楽しみ、親しんだと伝えられています。
今はもう周囲の環境が変わってしまい、住居などが経ったため、国束山系の山や鷲嶺を直接見ることはできなくなっています。
建築主の得水は、かなり考えて場所を選んだと思われます。
金森得水は江戸の後期の家老として藩政をあずかっていた方で、田丸領の財政再建に尽力しただけではなく、若くして国学を本居大平に学び、書道や和歌を有栖川宮幟仁親王の門下で学びました。
現在に伝わっている、日本古式泳法である『小池流泳法』の師範として久野家の家臣の師弟たちを指導し、多くの人から尊敬されていました。
また、全国から依頼があるほど陶器類の鑑定に定評があり、多彩な文化人であったと言われています。

 

蓋があいていることや指摘されたり、建築物の梁のお話など

ここは見学施設ですので、この炉の蓋は常時開けていますが、本来茶道では5月以降は炉は蓋をするそうなんです。
僕はそれに気づかなくて、「5月を越えたのに蓋が開いているよ」と指摘されたことがあります。
でもまあ見学施設ですので、みなさんに見てもらえるよう、常時蓋は開けていると説明させていただきました。
建築関係の方はとても感心してくれます。
趣のあるしっかりした造りであること、天井の梁にしても居宅側と茶室側では梁が違うこと。
茶室の方は迎賓用として立派な作りになっていますので、ビックリされます。
柾目板という、まっすぐ筋の通った板を使っていますし。
居室の方はもう、一般によく使われる板目板というのを使います。
板自体の素材が違います。
修復当時、かなり傷んでいるところがありましたが、建物自体の部材として80%は以前の部材を使い、どうしても傷んでいる20%は新たに作り直して、柿渋を混ぜた塗料でわからないようにしたと聞いています。

 

真はSNSを使ってアップしている

私は写真家もしています。
カメラを初めて手にしたのは、小学校のときでした。
父親が持っていたカメラを使って撮ったのが始まりでした。
中学で運動部はバレー部でしたが、文化サークルは写真部に入っていました。
高校3年間もずっと写真部でした。
先般も『玄甲舎写真展』と銘打って、管理人の目から見た玄甲舎の姿を何店か展示しました。
苔庭の庭園、この苔は『小杉苔』というのが使われています。
この苔を茶室側から庭を向いて撮った写真が、私は気に入っています。
春先は庭先にシャガの花が咲き、とても綺麗です。
シャクナゲも咲き、とても綺麗です。
会社を定年後、1年間シニアスタッフとして残ったのですが、どうしても自分なりに写真に関わる仕事をしたいと思い、就労サポートをしている玉城町生涯現役促進協議会の紹介で、玄甲舎の管理人の仕事に就きました。
玄甲舎管理の仕事の中にFacebookやInstagramなどで、玄甲舎だけでなく玉城町の情報発信していく仕事もあったので、本当に自分の希望とマッチして嬉しいですし、自分の力を活かせる仕事を見つけて、とても幸せだと感じています。

風景というのは一期一会。
全く同じ光景には出会いません。
同じような空でもやはり、その日その日で雲の様子も変わります。
光線の具合も変わります。
一枚一枚をシャッターごと、気持ちを込めて撮っています。